目次
- 拒食症から過食症へ
- 拒食症から過食症へ移行するプロセス
- 過食症になった私の経験談
3-1. はじめて過食をした日
3-2. 過食症の日々
3-3. 過食症で感じるストレス
3-4. 過食スイッチってなに? - 過食症の症状と特徴
4-1. 非嘔吐型過食症と嘔吐型過食症について
4-2. 拒食症と過食症のループ
◆おわりに
1. 拒食症から過食症へ
拒食症を抱える人にとって食事の時間は苦痛以外の何物でもありません。拒食症の人は食事を嫌悪し、拒否する傾向があります。食欲を我慢し続けることで、その我慢が日常的なものになり、食事という概念が遠ざかり食欲や満腹感が分からなくなってしまいます。
食事は人間にとって生存に不可欠な行為です。人間の三大欲求には、睡眠欲、性欲に加えて食欲があります。我々は食べ物から栄養を補給しなければ生きていけません。この生存本能はどんなに欲を否定しようとも、いつかは限界に達します。食べなければ生きていけないという事実が、拒食症の人にとっての現実です。
私自身も拒食症を経験し、その限界に直面しました。拒食症になり体重が13キロほど落ちたとき、体が生存のために食事を求め始めたのです。頭で考えるのではなく、体が動いてしまう瞬間がありました。それが過食症のはじまりです。
過食症についてはこちらの記事へ。
2. 拒食症から過食症へ移行するプロセス
拒食症から過食症への移行がどのように行われるかは人それぞれ異なりますが、一般的なプロセスは下記の①~④の段階を踏んでいくとされています。
①拒食症のときに決めた食事のルールが崩れる
食事制限や食事に対するルールが維持できなくなる、または難しくなり、次第にリズムが崩れていきます。
②食欲の自覚と過食衝動
長期間の食事制限により、身体の飢餓感が増大している状態。食欲を抑えることが難しくなり、過食衝動が起きるようになります。食欲が一気に押し寄せます。
③感情や食欲のコントロールができなくなる
食欲を感じることでストレスが激しく現れ、過食衝動も増幅されることがあります。感情のコントロールが難しくなり、食事への依存が高まります。
④過食行動の開始
拒食症から解放されるために過食行動がはじまります。また少量でも一度食べ始めると、食欲が抑えられなくなり、大量の食事を摂取し過食行動に走ってしまいます。
拒食症から過食症への移行は、体と心の葛藤の連続です。食事という本能的な行為がどれほど強力であるかを示しています。食事を拒否することは、最終的には人間の生存本能に抗うことができないのではないでしょうか。
3. 過食症になった私の経験談
3-1. はじめて過食をした日
拒食症に限界が来ていた私がはじめて過食を経験した日。
あんなに食べることが怖かったのに、突然の衝動で食べ物を求めました。トリガーは前項で説明した、食事のルールが崩れていたことによるストレスでした。決められたルーチンや食事量を守れず頭が混乱し、いつもより少しだけ食べ過ぎてしまった日に起きました。
ほんの少しだけ食べる量がコントロールできなかっただけのことですが、『あんなに守っていたのに、食べてしまった』という強い罪悪感で涙が出てきました。
食べることへの恐怖や、太ることへの不安と常に隣り合わせに生活していた拒食症の時期には感じることがなかったほどの後悔と自己否定を感じました。
拒食症の時期にまともな食事をしていなかったため、普通の量の食事でも胃もたれがひどく、食後は体が重く不快な感じがしました。拒食症の後の過食行動によって、消化器官が鈍っているのか、身体がだるく気持ち悪くなるのです。その時はまだ嘔吐をする方法を知らなかったため、ただ時間が経つのを待つしかありませんでした。
食べてしまった後悔、そして太るかもしれないという恐怖心が、体調不良と共に襲い掛かってきました。はじめて過食をした日は、メンタル的にも体調的にも辛い時間を過ごした記憶が鮮明に残っています。そしてその時からあんなに喉を通らなかった食事は、一線を越えてしまったように私に食欲を思い出させ、食欲を抑えられなくしたのです。
3-2. 過食症の日々
過食衝動は、まるで脳内で誰かが過食スイッチのリモコンを握っているかのようでした。一度過食を経験すると、自分ではどうしようもなくなります。心と体が、まるで過食を求めるかのように反応し、その衝動に抗うことが難しくなっていきました。
一度過食をしてしまってからというもの、ちょっとしたストレスでも過食衝動が起きるようになりました。気が付いたら口に食べ物を詰め込んでいる自分がいました。
心と体が過食を求めているかのように反応し、衝動を抑えることが出来なくなるのです。
もう二度と食べないと思っていたコンビニのお弁当や冷凍食品、砂糖たっぷりの菓子パンやスイーツをカゴいっぱいに買い漁り、家に帰って次々に胃袋の中へ放り込む。
食べている途中で『あぁ、やばいな。また食べてしまった』と正常な思考を取り戻しても、もう手遅れ。食べる手は止まりません。
過食は始めると止められないのです。
お腹がはち切れそうになるまで食べ続けてしまうのです。自分の意志とは裏腹に、食べ続けてしまうことに何度絶望したことか。過食衝動に負けて食べ始めたらもう終わり、お腹がパンパンになり、身動きが取れなくなるまで食べ続けます。
食べたくない、食べちゃダメという自分の意思とは正反対の行動が止まらなくなるのです。ほんのちょっとだけ・・とか、腹八分目とか、そんな事は出来ません。
お腹がはち切れそうなくらい食べて動けなくなったとき、愕然とします。
部屋に食べ散らかしたごみが散乱しているのです。お腹が苦しくて動けず、食べ過ぎて気持ちが悪くて動けなくなっているのです。ゴミや食べ残しが散らかった部屋で4、5時間うずくまって時間が経つのを待つ日々でした。数時間もの間、食べてしまった後悔、罪悪感、自己否定の中で過ごすのも辛かったです。
これが二週間に一度、一週間に一度、あるいは三日に一回という頻度で繰り返されます。次はいつこの衝動がやってくるのか、コントロールできない恐怖に日々怯えて過ごしていました。
3-3. 過食症で感じるストレス
過食後の心境は、まさにパニック状態に陥ります。
「食べてしまった…。これで太って無価値の人間になってしまう…。」という恐怖が頭を支配し、焦りと絶望が心を襲います。
「太る、太る、太る…。いやだ、どうしよう、やってしまった。」という思いが、頭の中で何度も繰り返されます。自己否定の感情が、何度も何度も襲い掛かり、涙がこぼれるほどの辛さです。
過食後、身体が動けない時間は、その感情がぐるぐると頭を巡り、地獄のような時間となります。とても辛く、苦しいもので、その時の心の痛みは、言葉では表現しきれません。
過食症や拒食症、どちらもその症状は非常に辛いものです。負のループから抜け出せず、拒食と過食を繰り返すこともあります。
拒食症は体力的な苦痛がありますが、過食症の精神的な苦痛はもっと強烈でした。拒食症の患者は体型の変化が目に見えるため、周りから心配されることがありますが、過食症は違います。程よく肉がついていれば心配されず、太っていれば嫌悪感を抱かれるかもしれません。食べ物を粗末に扱う姿は、他人にとって悪いことをしている様に見えることもあります。
過食症は一般的に拒食症よりも周りに理解されにくく、その苦しみは一層深刻でした。
3-4. 過食スイッチってなに?
過食衝動のことを過食スイッチが入る。なんて表現をしたりするのですが、実際、本当にいきなり緊張の糸が切れて、ピン!と一気に過食モードに思考が切り替わります。一瞬のうちに、理性が飛んでしまい、食欲が制御不能になります。
過食スイッチが入る瞬間は、多くの過食症の方々にとって、戦いが始まる合図です。普段は食事をコントロールできているかのように見えても、過食スイッチが入った瞬間、自分の意志は置き去りにされ、食欲のままに手当たり次第に食べ始めるます。
この過食スイッチが入る原因はさまざまです。ストレスや不安、孤独感などの精神的な問題が影響することもあります。禁忌としている食事への強い欲求、厳しく決めた食事ルールから解放されたくて反動が起きている可能性も考えられます。
一度スイッチが入ると、そのまま衝動を止めることはできず、ひたすら食べ続けます。過食スイッチが入っている時間は他者に対して攻撃的になることもあります。まるで食べ物を横取りされそうになった獣のように、過食している時間に邪魔をされると苛立っていました。
また過食スイッチは時間と共に些細なことでも発動しやすくなるのが特徴としてあげられます。
過食スイッチによって過食頻度が上がることで摂食障害をますます悪化させているのです。
4. 過食症の症状と特徴
4-1. 非嘔吐型過食症と嘔吐型過食症について
過食症には、非嘔吐型と嘔吐型の2つのタイプがあります。それぞれの違いを分かりやすく説明します。
【非嘔吐型過食症】
過食行動はあるが嘔吐行動はない。
過食後に自己嫌悪感や罪悪感を強く感じる。
過食のトリガーは感情的な問題やストレスなどが多い。
体重の増減に変動があり、それによって自己評価が低下することがある。
【嘔吐型過食症】
過食行動の後、意図的に嘔吐行動や利尿剤の使用などを行う。
過食後の罪悪感や自己嫌悪感を和らげるために嘔吐行動を行うことがある。
過食行動は通常、食べた量を減らすために意図的に行われる。
嘔吐行動によって、体重の増加を抑えようとする。
このように、非嘔吐型過食症と嘔吐型過食症の違いは、過食後に嘔吐行動があるかどうかです。非嘔吐型過食症の場合、過食行動によって自己嫌悪感や罪悪感が引き起こされますが、それに対して嘔吐行動などの代替行動は取られません。一方、嘔吐型過食症の場合、過食後に嘔吐行動などの代替行動を行うことで、自己嫌悪感や罪悪感を和らげようとします。
4-2. 拒食症と過食症のループ
今はもう、私は『嘔吐する』という方法を覚えてしまいましたが、過食症の患者さんの中には嘔吐ができない人も多いと思います。非嘔吐型過食の方の中には過食したぶん体重の増加が自己評価の低下に繋がり鬱状態になったり、食事制限をより厳しくしたりと苦しむ方もいます。
過食症を知らない人は、「ただ食べ過ぎてしんどいだけでしょ?」と思うかもしれませんが、私たちはただの食いしん坊ではありません。過食症の辛さは一般的に理解され難いことも一つです。
食事のコントロールが利かなくなり、過食をしてしまった後には激しい自己嫌悪と体調不良で苦しみます。止めようと思っても止められず、後悔や自己嫌悪はとても辛いものでした。
摂食障害は、もともと真面目で感情の起伏に臨機応変に対応できない人に多い傾向にあるように思います。感情のコントロールやストレス発散のやり場がなくなり、ストレスをため込むことで、過食行為に走る。だけど実際に過食行為でさらに自分を追い込んでしまう。
発狂したくなるような感情の中、泣きながら過食する時間もたくさんありました。過食をしているとはいえ、食べることを楽しむことはありませんでした。
そして、また厳しい食事制限や断食をすることでそのストレスを解消しようとします。過食症と拒食症が交互に症状が出やすいのは、そういった理由があるのです。
摂食障害者は、交互に訪れる過食と拒食のループ衝動を「過食期」と「拒食期」と呼びます。これは、雨季と乾季、光と影、夏と冬のように、同時に存在しているのです。
◆おわりに
摂食障害は病気、という事実はもちろんですが、本人にとってはそれ以上に過食と拒食を繰り返す中での体重の増加が一番の悩みなのです。病気を治すことよりも体重の増加が深刻な問題で体重を減らすことが何より優先すべきことだと感じてしまいます。
摂食障害がなかなか治りにくいことがよく分かる思考です。
過食期の辛さ、拒食期の辛さ、自己否定と後悔を繰り返し心と体が押しつぶされそうな思いをしました。いま摂食障害の症状で悩んでいる方がいらた自己否定を続けないで、と声を掛けてあげたいです。『大丈夫だよ。私も同じだよ。』と。
自己否定を続けないことが摂食障害を克服する第一歩です。
過食行動は意思の弱さだと言われることもありますが、全くそんなことはありません。本人がどれほど辛い気持ちかは、この病気にかかっていないと理解できません。それでも、本人は他人からの言葉を受け取り、自分の意思が弱いからダメなんだとさらに落ち込んでしまうことがあります。それが過食症の辛さです。
心も体も声に出せない悲鳴を上げていることに、どうか本人も周りの人も気づいて欲しい。
そして過食症がもっと認知され過食症を抱えている人が少しでも生きやすくなるように願います。
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